決算書の粗利率が安定していても、住宅会社の案件別採算が安定しているとは限りません。完成時期の偏り、追加変更の未計上、外注費の請求遅れ、原価区分の変更で、年度の数字は動きます。M&Aのデューデリジェンスでは、全社平均を一つ確認するのではなく、契約から完成まで同じ案件を追い、将来も再現できる粗利と一時的な増減を分けます。
粗利率の定義をそろえてから比較する
売上原価に現場監督の人件費、設計費、仮設費、展示場費などを含めるかは会社ごとに異なります。新築、建売、リフォーム、仲介を一つの率で比べるのも適切ではありません。経理上の表示を変更するのではなく、比較用に直接原価と共通費の範囲を定義し、過年度も同じルールで組み替えられるようにします。
| 見かけ上の変動 | 確認する事実 | 分析上の扱い |
|---|---|---|
| 粗利が急上昇 | 未着請求、原価振替、完成判定 | 案件別の将来原価を再見積り |
| 粗利が急低下 | 資材高騰、手直し、値引き | 一過性と継続要因を分離 |
| 商品別に差 | 標準仕様、地域、担当、工期 | 同条件の案件群で比較 |
| 追加変更が多い | 受注書、原価、請求・回収 | 本体と追加分を対応させる |
四つの資料を案件番号でつなぐ
工事台帳、請負・売買契約、発注・請求資料、会計仕訳を案件番号で照合します。工事台帳の整備方法は工事台帳が評価を左右する理由で詳しく確認できます。台帳合計と試算表が合わない場合は、値を無理に合わせず、共通費、未払、仕掛、取消案件など差額の内訳表を作ります。
完成案件は契約月コホートで見る
同じ時期に契約した案件群を、契約時予算、最終売上、最終原価、完成時期で並べます。これにより、値上げ後の受注が原価高騰を吸収できたか、工期の長期化で追加費用が出たかを観察できます。平均だけでなく中央値、赤字案件の数、上位案件への偏りも示すと、一件の大型案件に結果が左右されていないかが分かります。
未完成案件は「今までの粗利」ではなく完成見込で測る
未完成工事は、契約額と累計原価だけで粗利を判断しません。残工事、未発注、価格未確定の資材、追加変更、遅延、補修見込みを担当者へ確認し、完成までの総原価を見積もります。会計勘定との照合は未成工事支出金・受入金の確認実務につながります。
総原価が一定割合増えた場合、完成が一定期間遅れた場合、追加変更が回収できない場合を別々に試算します。数値を断定するためではなく、どの前提が粗利へ大きく効くかを特定する感応度分析です。担当者の楽観・悲観を責めず、見積り根拠と更新日を残します。
正常粗利へ調整するときの証拠
- 一度だけ発生した手直しは、原因と再発防止の実施資料
- 資材価格の上昇は、仕入価格と顧客価格改定の時系列
- 関連会社取引は、市場条件との比較と継続可能な契約
- 社長承認の値引きは、案件理由と譲渡後の承認ルール
- 外注費の未計上は、発注残・請求予定と案件への配賦
調整額は「M&Aだから除く」のではなく、将来に再発しない根拠があるかで判断します。企業価値との接続は住宅会社のEBITDA評価、買い手の収益確認はリフォーム会社M&Aの収益性チェックも参考になります。
面談で数字と現場の説明を一致させる
買い手との面談には経理だけでなく、見積り・発注・施工の流れを説明できる責任者も参加します。赤字案件を隠すより、発生原因、発見時期、顧客との対応、再発防止を一続きで示す方が分析可能です。案件別粗利の定義、差額表、完成見込原価の三点がそろえば、価格交渉を全社平均の印象論から具体的な前提の協議へ変えられます。
サンプル案件を端から端まで再計算する
高粗利、低粗利、未完成、追加変更ありなど特徴の違う案件を選び、契約額から入金、発注、請求、原価仕訳まで証憑へ戻ります。選ぶ案件を売り手の都合のよいものだけにせず、金額上位や例外条件など再現できる基準で抽出します。差額が出たら母集団全体への影響を検討します。
分析ファイルには元データの抽出日、加工手順、除外案件を残します。後から月次決算が更新されても、前回との違いを追えるように版を固定します。買い手からの質問は案件別Q&Aに記録し、回答の根拠資料を添えると、同じ確認を複数担当者が繰り返す負担を減らせます。回答後に数値が変わった場合は、変更理由と影響する表を更新履歴とともに通知します。
粗利の期ズレや案件台帳の不一致がある場合は、譲渡価格を下げない事前準備を手掛かりに、資料を直す前の状態も保存して原因から整理してください。
