クレーム台帳は不具合件数を少なく見せる資料ではありません。引渡し後の連絡を受け、優先度を判断し、補修を完了して費用を把握できる運用を示す資料です。M&Aでは、未解決案件がいくら残るかだけでなく、譲渡後に顧客が迷わず相談できるか、同じ原因が繰り返されていないかを確認します。記録がない状態を「問題がなかった」と説明するのは避けます。
一件一行で、受付から完了まで追える台帳にする
| 項目 | 記録例 | 確認目的 |
|---|---|---|
| 受付 | 顧客・物件ID、受付日、窓口、申告内容 | 契約・図面・施工履歴へ接続 |
| 判定 | 安全性、漏水等の緊急度、暫定対応 | 初動の優先順位を明確化 |
| 責任 | 調査結果、保証範囲、協力会社・保険 | 費用負担を根拠付きで検討 |
| 進捗 | 訪問、見積、部材、実施予定、顧客連絡 | 長期滞留と約束超過を発見 |
| 完了 | 補修日、費用、確認者、再発防止 | 未解決と再発案件を区別 |
自由記述だけでは集計しにくいため、部位、原因、重要度、状態を選択項目にし、具体的な経緯はメモで補います。紙、メール、担当者の携帯に分散した履歴も、重複を残したまま一度集め、同一案件と確認できてから統合します。
件数より先に重要度と経過日数で並べる
安全、漏水、生活への影響など緊急性が高いもの、顧客との約束日を過ぎたもの、原因未特定のものを優先します。軽微な調整を含む総件数だけでは、将来負担を読み違えます。受付から初回連絡、現地確認、見積、完了までの日数を分けると、どこで滞留しているかが見えます。
再発は部位だけでなく原因で束ねる
同じ建材、同じ施工班、同じ設計詳細、特定時期の案件に集中していないかを確認します。個別補修が終わっていても、同じ原因が他物件に潜む可能性があれば、対象範囲と点検方針を検討します。住宅瑕疵担保責任保険や自社保証の確認は保険・アフター保証を整理する方法へつながります。
将来費用は「保険で戻る」と決め付けない
未解決案件ごとに、調査、材料、外注、仮住まい等の見込費用を、根拠と更新日付きで置きます。保険や協力会社からの回収を見込む場合は、対象範囲、免責、通知・請求状況、相手方の回答を別に記録し、未確定の回収額を費用と相殺して見せないようにします。会計上の引当や価格への反映は、公認会計士・税理士等と個別に判断します。
工事台帳の案件番号とつなげれば、補修費が元工事の粗利にどう影響したかも追えます。台帳照合の基本は工事台帳のデューデリジェンスを参照してください。
譲渡日をまたぐ案件に引継ぎSLAを置く
受付済み案件について、決済前後の窓口、顧客への説明者、調査担当、費用承認、協力会社への発注、完了確認を一行ずつ決めます。旧社長の個人携帯だけを窓口に残さず、会社の電話・メール・システムへ移します。顧客には必要な時期に、担当変更、連絡先、約束済み工程を事実に即して案内します。
- 緊急案件は当日中に誰が一次判断するか
- 未確定の責任区分を誰が調査・承認するか
- 決済前に約束した無償対応をどの台帳で引き継ぐか
- 補修完了を顧客と社内の誰が確認するか
- 月次で件数、滞留、費用、再発を誰へ報告するか
OB施主との関係を守る考え方はOB施主対応を扱う事例解説、社内の窓口設計は従業員説明とPMIも参考になります。
開示時は個人情報と対応品質を両立する
初期段階では物件・顧客名をコード化し、候補の必要性と秘密保持を確認してから詳細を開示します。クレーム内容に感情的な評価を書かず、顧客の申告、会社の調査、判断、実施事項を分けます。虚偽の完了処理や決済直前の一括消去は、信頼を大きく損ないます。
基準日以後の新規受付を止めない
デューデリジェンスへ提出した台帳は、その日以降も更新されます。基準日、追加受付、完了、費用変更を差分一覧にし、重要案件は決めた頻度で買い手へ報告します。古いファイルを上書きすると、どの情報で条件を合意したか分からなくなるため、提出版と運用版を分けて版番号を付けます。
週次の確認会では、未完了総数ではなく、緊急案件、約束日超過、原因未特定、部材待ち、顧客連絡待ちを順に見ます。各案件の次の行動と期限が空欄なら、その場で責任者を置きます。この短い会議を譲渡後の新窓口へ引き継ぐと、担当変更による放置を防ぎやすくなります。
未処理案件が多い場合でも、優先順位と担当・期限が見える台帳に直せます。保証対応の現状を整理したい方は、譲渡企業向け相談フォームで現在の管理媒体と概況、件数感からお知らせください。
