工事台帳は、住宅会社の売上を案件単位の実態へ戻すための地図です。決算書の利益が同じでも、追加工事が未計上なのか、完成見込原価が甘いのか、赤字案件が一件だけなのかで、買い手の評価は変わります。M&Aの調査では、整った帳票の見栄えよりも、契約・現場・会計を同じ工事番号で追えることが重要です。
一件の工事を三つの資料で再現する
最初から全案件を精査する必要はありません。直近に完成した工事、期末をまたいだ工事、粗利率が極端な工事、追加変更の多い工事を抽出し、次の三方向から一致を確かめます。
| 資料 | 読み取る数値 | 照合先 |
|---|---|---|
| 契約書・変更合意 | 当初請負額、追加・減額 | 台帳の最終売上見込 |
| 請求書・発注書 | 材料費、外注費、現場経費 | 台帳の実績原価 |
| 試算表・総勘定元帳 | 売上、仕掛、買掛、前受 | 案件別集計の合計 |
期末をまたぐ案件では、未成工事支出金・未成工事受入金の確認手順も使い、工事台帳の残高と会計残高の差を説明できる状態にします。
最低限そろえたい台帳項目
- 工事番号、顧客、現場、商品区分、担当者、契約日
- 当初請負額、追加変更額、値引き、最終売上見込
- 予算原価、発注済額、支払済額、完成見込原価
- 着工・上棟・完成・引渡しの日付と決算期
- 入金済額、未収額、前受額、保留金の有無
- 補修予定、クレーム、保証対応、引当の判断
大切なのは空欄を無理に埋めることではなく、未確定を未確定として示し、更新者と更新日を残すことです。買い手は数字の完璧さだけでなく、予実管理が再現可能かを見ています。
異常値テストで調査対象を絞る
粗利率の外れ値
商品別・担当者別・完成月別に粗利率を並べ、中央値から離れた案件を確認します。高粗利でも安心はできません。未着の請求書、外注費の付け替え、追加工事の口頭合意があれば、完成後に利益が下がります。正常収益への組み替えは住宅会社の粗利率デューデリジェンスで詳しく説明しています。
日付の逆転と長期滞留
引渡し後も未成勘定に残る、売上計上より発注が後になる、完成予定日を何度も延期している、といった行は優先確認します。原因が入力遅れなのか、工程遅延なのか、顧客との紛争なのかで対応が異なるため、現場責任者の説明と証憑をセットで残します。
予算原価が更新されない案件
契約後に資材価格や仕様が変わっても当初予算のままなら、見かけの予想粗利は過大です。発注済額に未発注工事の最新見積りと現場経費を足し、完成見込原価を月次で更新します。補修費が別管理ならクレーム・保証台帳との工事番号連携も必要です。
買い手に渡す「差額説明表」の作り方
- 基準日を決め、工事台帳を締める。
- 台帳の売上・原価・未成残高を合計する。
- 試算表との差額を、未入力、計上区分、締め日の差、案件不明に分類する。
- 重要差額には証憑、担当者、解消予定日を付ける。
- 修正後の利益と資金繰りへの影響を別々に示す。
差額を隠して数字を合わせるより、発生理由と再発防止が見える方が検討は進みます。企業価値へのつながりは住宅M&Aの評価と事前準備も参考になります。
一件のウォークスルーで運用実態を確かめる
台帳の説明担当者に、任意の一案件を選んでもらい、見積提出から契約、実行予算、発注、出来高、追加変更、完成、入金まで画面と原本で追います。説明の途中で別の表へ手入力している箇所、担当者しか知らない判断、締め後に戻す調整仕訳があれば記録します。これは担当者を試す作業ではなく、買い手が同じ月次締めを再現するための業務確認です。
追加変更には、顧客合意済み・見積提出中・無償対応・協力会社だけ発注済みの状態があります。台帳では一つの「追加工事」にまとめず、売上計上可能性と原価発生を別々に管理します。原価だけ確定し、顧客との金額合意がない案件は予想粗利を下げる可能性があります。
調査質問を台帳の改善へ戻す
- 予算原価を最後に更新した日と承認者は誰か。
- 未請求の追加変更をどこで把握しているか。
- 共通経費を案件へ配賦する基準は一貫しているか。
- 完成後の請求書到着を何か月追跡するか。
- 工事台帳を会議でどの判断に使っているか。
台帳の改善は数件の再現から始める
システム導入を先行させる必要はありません。まず重要案件を選び、契約から入金まで一つの番号で説明できるかを試してください。どの差額から手を付けるべきか迷う場合は、工事台帳と直近試算表を整理して住宅M&Aの無料相談をご利用いただけます。
