建売・分譲住宅会社のM&Aでは、「在庫十棟」という件数より、土地取得から販売までのどこに資金が止まっているかが重要です。同じ帳簿価額でも、許認可前の土地、建築中、完成直後、長期未成約では換金時期と追加支出が違います。物件別の在庫表と借入表を結び、販売速度が変わった場合の資金繰りを示します。
在庫表を四つの段階に分ける
| 段階 | 主な確認事項 | 将来支出 |
|---|---|---|
| 仕入契約・未決済 | 手付、解除条件、融資承認 | 残代金、仲介・登記費用 |
| 土地・造成中 | 許認可、越境、地盤、造成進捗 | 造成、負担金、金利 |
| 建築中 | 工程、発注、完成見込原価 | 未発注工事、外構、検査 |
| 完成在庫 | 完成日、反響、値下げ履歴 | 販促、維持、税・金利 |
各物件に物件コードを付け、土地、建物、造成、設計、販売費、借入を同じコードで追います。仕入経路の再現性は用地仕入ルートのM&A評価と併せて確認します。
帳簿価額から「必要資金」へ組み替える
買い手が知りたいのは、過去にいくら投じたかだけでなく、完成・販売・回収まであといくら必要かです。物件別に次の式を置きます。
回収までの必要資金 = 土地残代金 + 未発注・未払工事 + 販売費 + 保有期間中の金利・税等 - 受領済み手付等
販売予定額は、当初価格だけでなく、直近の近隣成約、問い合わせ数、内覧、販売経過日数、値下げ履歴を添えます。原価へ算入する範囲と販管費にする範囲は会社ごとに違うため、会計方針も明示します。
三つの販売シナリオで感応度を見る
- 基準:現在の価格・平均販売期間で回収する。
- 遅延:販売が数か月延び、金利・維持費・販促費が増える。
- 値下げ:販売価格を一定率下げ、早期回収と利益減少を比べる。
仮定値は会社の過去実績と現在の市況から置き、都合のよい一案だけを示さないことが大切です。全物件一律ではなく、駅距離、価格帯、完成後日数、反響によってシナリオを変えます。評価全体への反映は住宅M&Aの譲渡価格と事前準備も参考になります。
借入を物件へひも付ける
金融機関別の借入一覧に、実行日、残高、返済期限、金利、対象物件、担保順位、根抵当、代表者保証、財務制限条項、期限前返済条項を記録します。一つの根抵当権が複数物件や本社不動産を覆う場合、物件売却時の一部解除条件も確認します。
M&Aの成立だけで借入や代表者保証が当然に解除されるわけではありません。株主変更の事前承諾、融資継続、借換え、返済のどれを想定するかを金融機関ごとに整理します。対話の順序は代表者保証と金融機関対応をご覧ください。
金融機関へ説明する資料は買い手資料と分ける
金融機関向け
物件別資金使途、販売計画、返済原資、担保、譲渡後の運営体制、買い手の資金計画を示します。秘密保持の時期を踏まえ、誰がどの段階で説明するかも合意します。
買い手向け
在庫表、工事原価、販売反響、借入対応方針をデータルームに分け、基準日を統一します。更新のたびに版を残し、在庫売却や追加借入による差分を記録します。
在庫年齢表で滞留理由を分類する
経過月数だけで一律に評価を下げず、未着工、工事中、完成、販売停止の各段階で滞留理由を記録します。許認可待ち、造成遅延、施工能力不足、価格乖離、広告不足、境界・近隣問題では、解消策も必要資金も違います。完成日、最終価格改定日、最終問い合わせ日を並べると、単なる季節要因か構造的な停滞かを見分けやすくなります。
土地の一部をモデルハウス、資材置場、将来開発用として使っている場合は、販売在庫と事業用資産を混ぜません。開発区域を分割して売れるか、共用道路・上下水道・負担金が残るかも確認します。
買い手が追加確認する質問
- 価格を下げても売らなかった理由は何か。
- 完成までに買い手の仕様変更余地はあるか。
- 近隣説明、行政協議、検査で未了事項はないか。
- 販売委託先との専任契約や広告費残はあるか。
- 一括売却した場合に借入・担保を解除できるか。
最終契約に在庫変動ルールを置く
基本合意から決済までにも仕入、着工、値下げ、成約は動きます。通常運営の範囲、一定額以上の新規仕入・値下げ・借入に必要な買い手承諾、基準在庫からの価格調整方法を定めます。在庫を固定し過ぎれば事業が止まり、自由にし過ぎれば買い手の前提が変わるため、金額基準と報告頻度を決めます。
建売業固有の評価項目は建売・分譲住宅会社のM&Aで確認できます。在庫と借入の対応表から着手したい方は、資料をそろえて住宅会社の売却相談へご相談ください。
