本記事は、当社に実際に寄せられたM&A・事業承継のご相談をもとに、相談者や企業を特定できないよう、内容の一部を加工・再構成して掲載しています。相談時の課題や検討内容をご紹介するものであり、個別案件の成約や同様の結果を保証するものではありません。
支店だけを売るときは会社の境界を作り直す
複数地域で注文住宅と改修を行う会社から、遠隔地の支店の承継先を探し、本社と他支店へ経営資源を集中させる選択肢についてご相談をいただきました。ご相談では、本社から切り離す対象と、独立運営に必要な機能を整理しました。支店は法人ではなく、顧客契約、雇用、許可、ブランド、会計、システムを本社と共有しています。そのため「店舗と人を渡す」だけでは事業として動きません。
最初に譲渡対象を、資産、契約、人、データ、負債、知的財産、許認可へ分けます。株式譲渡と事業譲渡の違いを踏まえ、支店切出しでは個別移管が必要となる範囲を専門家と確かめます。
支店損益を単独運営の数字へ直す
社内の支店別損益には、本社の設計、積算、経理、広告、保証受付、IT費用が配賦されていない場合があります。反対に、恣意的な共通費配賦で実態より悪く見えることもあります。買い手が運営した場合に必要な機能を洗い出し、過去実績と将来仮定を分けて表示します。
| 支店指標 | 確認する分母・期間 | 切出し時の意味 |
|---|---|---|
| 問い合わせと商談 | 市区町村、媒体、担当者、月別 | 本社広告から独立できるか |
| 受注・粗利 | 新築・改修、契約・着工・完工別 | 工期ずれを除いた採算 |
| 受注残 | 工程、入金、未払、完成責任 | 移管する仕事と運転資金 |
| 施工供給 | 監督、職種、移動距離、集中度 | 地域内で現場を回せるか |
| 本社依存 | 設計時間、積算件数、システム、保証 | 移行支援の必要量 |
案件別粗利の読み方は住宅会社の粗利率を確認するポイントも使えます。改善見込みを実績に混ぜず、買い手が新たに負担する人件費やシステム費を別欄にします。
カーブアウト台帳で対象と対象外を一対にする
- 支店従業員と兼務者、雇用主、転籍同意、勤続・休暇の扱い
- 店舗賃貸借、車両、工具、展示物、在庫、リース、敷金
- 進行中・見込み・OB施主の契約主体とデータ利用目的
- 電話番号、Webページ、ドメイン、広告アカウント、口コミ管理
- 地域の協力会社、仕入先、設計外注、保証・保険の契約
- 本社に残す訴訟、未払、税務、過去保証と買い手の協力範囲
一つの契約に複数支店が含まれる場合は、分割、再契約、利用許諾、一定期間の共同利用を比較します。顧客DBを地域だけで機械的に分けると、本社で対応中の補修や重複世帯を誤って移す可能性があります。案件責任者が最終確認します。
移行サービスは期限と出口を決める
買い手が初日から経理、IT、設計、保証受付を用意できない場合、売り手本社が一定期間支援する移行サービス契約を検討します。対象業務、受付時間、処理件数の基準、費用、個人情報、障害対応、終了日を明記します。「必要な限り支援する」という無期限の約束にしません。
支援の終了条件には、新しい口座での請求、買い手システムでの契約作成、設計審査の完了、顧客窓口の切替えなど、確認できる作業を置きます。本社社員へ負荷が集中しないよう、依頼方法と優先順位も決めます。
顧客には法人変更を具体的に説明する
事業譲渡では契約上の地位移転に同意が必要となる場面があります。施主へは、契約相手、振込先、工事担当、保証窓口、個人情報、旧会社の責任を明示します。屋号や店舗が同じでも運営法人の変更を隠しません。未契約の見込み客についても、誰が情報を使い連絡するかを整理します。
協力会社へは発注済み工事、検収、請求先、支払日を現場ごとに通知します。本社一括購買の価格が使えなくなる場合は、買い手の採算計画へ反映し、従来条件を自動継続すると説明しないようにします。
兼務社員とブランド利用は別契約にする
本社の設計者や経理担当が支店案件も処理している場合、その人を転籍対象へ含めるか、売り手に残して移行サービスを提供するかを本人の意思と業務量から決めます。一人の勤務時間を売り手と買い手が二重に見込まず、依頼窓口、優先順位、指揮命令、費用を明確にします。
共通の屋号や商品名を買い手が使うなら、商標の所有者、地域、期間、品質基準、広告審査、契約終了時の看板・Web削除を利用許諾に記載します。ブランドを使えることと、本社保証が付くことを顧客が混同しない表示にします。
支店の電話番号や口コミページを移す場合も、サービス提供者の規約と本人確認が必要です。過去レビューを別法人がそのまま実績表示できるかを確認し、運営会社の変更を隠しません。旧支店ページから新会社への案内期間と終了日も決めます。
切替え後の独立性を検査する
最初の商談から契約、発注、施工、入金、点検まで、買い手側だけで処理できるかを追います。本社への問い合わせ、旧口座への入金、旧メールへの顧客連絡、共通システムへの権限を記録し、移行サービス終了前に解消します。採算は一時的な移行費と平常運営費を分けて評価します。
住宅関連の対象業種を比較するには住宅関連業種のM&A一覧をご利用ください。支店別資料が未完成でも、売り手向け相談で切出し範囲から整理できます。
